ここ最近、コララン®、エンレスト®、フォシーガ®などの慢性心不全の治療薬が次々と出てきている中、新規作用機序のベリキューボ®(ベルイシグアト)が2021年6月に承認された。
イバブラジン(コララン®):2019年11月発売
☑ 適応は「洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」
☞単独投与はダメ
☞慢性心不全は、その予後と心拍数との間に負の相関関係が認められており、心拍数が心血管系イベントの独立したリスクファクターとして重要。
☑ HCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネル遮断薬に分類され、血圧に影響せず心拍数だけを低下させる。
β遮断薬の最大忍容量が投与されても安静時心拍数が75回/分以上の患者に投与する。
☑ 併用禁忌にワソラン®(ベラパミル)、ヘルベッサー®(ジルチアゼム)があることに要注意!
サクビトリルバルサルタン(エンレスト®):2020年8月発売
☑ 適応は
「慢性心不全。慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」
その後
「高血圧症」の適応も取得。
通常、心不全には1日2回服用、高血圧には1日1回で服用する。
☑ ネプライシリン阻害薬(サクビトリル)とARBのバルサルタンを含む。
☑ 併用禁忌にACE阻害薬がある。
左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象にした海外第III相PARADIGM-HF試験において、エナラプリルと比較して心血管死および心不全による入院からなる複合エンドポイントのリスクを有意に20%減少させた。
ダパグリフロジン(フォシーガ®):2020年11月に追加承認
☑ SGLT2阻害剤である本剤は、もともとは1型と2型糖尿病に適応があったが、2020年11月に次の適応が追加承認された。
「慢性心不全、ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」
☑ 糖尿病では1日1回5もしくは10mgだが、慢性心不全では1日1回10mg。
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
☑ SGLT2阻害剤である本剤は、もともとは2型糖尿病に適応があったが、2022年4月に次の適応が追加。
「慢性心不全、ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」
☑ 糖尿病では1日1回10もしくは25mgだが、慢性心不全では1日1回10mg。
☑ 国際共同第Ⅲ相試験 EMPEROR-Reduced試験では、糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)において、エンパグリフロジンは心血管死または心不全による入院の相対リスクを25%、心不全による入院の初発および再発の相対リスクを30%低下させ、腎機能の指標であるeGFRの低下を遅らせた。
☑ 2021年7月に公表されたEMPEROR-Preserved第3相試験の結果では、左室駆出率が維持された心不全(HFpEF)の心血管死および心不全による入院を有意にリスクを低減することが示された。
☑ つまり、エンパグリフロジンは左室駆出率にかかわらず心不全患者の予後を改善することが示された。
左室駆出率:
左心室が収縮するごとに送り出される血液量のパーセンテージの値。
左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF):
HFrEFになるのは心筋が効果的に収縮しておらず、心臓が正常に機能している場合と比較して身体に送り出される血液が少ないとき。
左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF):
HFpEFになるのは、心筋が正常に収縮するが、心室に十分な血液が満たされていないとき。心臓が正常に機能しているときと比較して、心臓に流れ込む血液が少ない。
これらの薬剤に続いて承認されたのが、今回紹介する慢性心不全治療薬としては新規作用機序(可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤)のベリキューボ®(ベルイシグアト)だ。
ベリキューボ®(ベルイシグアト)~可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤~
<特徴>
心不全では、NO(一酸化窒素)産生の低下やsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)の機能不全が生じ、組織中のcGMP(環状グアノシン一リン酸)が低下している。
cGMPは心臓に対して大事な物質で、cGMPシグナルが低下すると心筋と血管の機能不全の一因となり、さらなる心不全の悪化に寄与すると考えられている。
心不全の病態で障害されているNO-sGC-cGMP経路をターゲットとした新しい慢性心不全治療薬が、ベリキューボ®(ベルイシグアト)である。
標準治療を受けている慢性心不全患者において、ベルイシグアトは心血管死又は心不全による入院のリスクを低下させる。
左室駆出率が40%未満の心不全(HFrEF)患者にベルイシグアトを投与。
結果:
心血管死 or 心不全による初回入院の複合エンドポイント発現リスクを有意に低下(ハザード比0.90[95%CI:0.82~0.98]
空腹時だとAUC、Cmaxが低下するため、食後投与が推奨。
また、空腹時と比較して、食後の方が患者間のAUCとCmaxのばらつき変動が低下する。
<作用機序>
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を、一酸化窒素(NO)非依存的に、またNOを介して刺激し、cGMPの生成を促進する。
cGMPは心筋収縮力、血管緊張、心臓リモデリング等の生理機能の調節に関わる物質である。
☞難しいことはさておき、cGMPが大事!と覚えよう。
<適応>
慢性心不全。ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
☞左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。
<用法用量>
通常、1回2.5mgを1日1回から開始。
2週間間隔で1回量を5mg及び10mgに段階的に増量する。
なお、血圧等患者の状態に応じて適宜減量する。
☞同じ可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬であるリオシグアト(アデムパス®)の適応が肺高血圧症であることを知っていれば、血圧に注意というのは容易に想像できる。
<注意点>
血管を拡張し血圧を低下させる作用をもつため、定期的に血圧測定を行い、以下の基準を参考に用量調節する。
<併用禁忌>
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬:リオシグアト(アデムパス®)
理由:細胞内cGMP濃度が増加し、降圧作用を増強するおそれがあるため。
ついでにリオシグアト(アデムパス®)も覚えよう
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬には先にリオシグアト(アデムパス®)が発売されている。
リオシグアト(アデムパス®)の適応は肺高血圧症、正確にいうと
●外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症
●肺動脈性肺高血圧症
に対して適応がある。
<作用機序>
NO-sGC-cGMP経路においてcGMPの産生を促進し、肺動脈を拡張させることで肺高血圧を下げる。
<構造比較>
ベルイシグアト(ベリキューボ®)とリオシグアト(アデムパス®)の構造比較
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬には
ベルイシグアト(ベリキューボ®)とリオシグアト(アデムパス®)がある。
ともに、NO-sGC-cGMP経路においてcGMPの産生を促進。
cGMPは心筋収縮力、心臓リモデリング、血管緊張等に関わっている。
ベルイシグアトは慢性心不全、
リオシグアトは肺高血圧に使用する。
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