エナンチオマーとラセミ体
エナンチオマー=鏡像異性体(≒光学異性体)を等量ずつ含む物質をラセミ体というが、そこから片一方のエナンチオマーを取り出し、製品化した薬剤がいくつかあるので紹介する。
オメプラール®:オメプラゾール(ラセミ体)
↓S体のみ
ネキシウム®:エソメプラゾール
タリビッド®:オフロキサシン(ラセミ体)
↓S体のみ
クラビット®:レボフロキサシン
アモバン®:ゾピクロン(ラセミ体)
↓S体のみ
ルネスタ®:エスゾピクロン
ジルテック®:セチリジン(ラセミ体)
↓R体のみ
ザイザル®:レボセチリジン
注意!
クラリチン®(ロラタジン)とデザレックス®(デスロラタジン)は上記の関係ではない。ロラタジンの主要活性代謝物がデスロラタジンであるので勘違いしないように。
上記以外でも、鎮痛薬のフルルビプロフェンのS体製剤にロコア®テープがある。
ロコア®は内服NSAIDsを飲んでいるような製剤で、禁忌も内服NSAIDsに似ている。
処方されたときは要注意だ!
それ以外にも、病名が変形性〇関節症であること、1日1回の使用で同時に2枚まで、内服NSAIDsとの同時使用には要注意であることなど、確認することはモーラス®テープやロキソニン®テープなどより多い。
各薬剤の特徴は?
☑オメプラゾールはCYP2C19とCYP3A4によって代謝されるが、このうちCYP2C19には遺伝子多型が存在し、日本人の割合は次のようであった。
代謝の早いhomo-EM(extensive metabolizer):30%
代謝が中間のhetero-EM:55%
代謝の遅いpoor metabolizer(PM):15%
このため、EMの人には効果が十分に得られていないケースや、逆にPMの人には効きすぎている(投与量が多すぎる)可能性がある。つまり、オメプラゾールの効果には個人差がある場合があった。
その一方、エソメプラゾールはCYP2C19の影響が少なく、効果の個人差が少ない。
☑レボフロキサシンはオフロキサシンより抗菌活性が2倍高い。
ちなみに、今ではレボフロキサシンの1日1回500mg(腎機能に応じて減量)投与が当たり前だが、一昔前の用法用量は1回100mg、1日3回だった。
ご存じの通り、レボフロキサシンは濃度依存性殺菌作用を示すため、1 日の投与回数を増やすよりも1回投与量を増やすほうが効果が高い。
☑ゾピクロンは一部が唾液中に分泌され苦味を感じることがあるのは有名だが、エスゾピクロンにも同様の苦味の報告はある。
ともに超短時間作用型睡眠薬に分類されるが、ゾピクロンの半減期は約4時間、エスゾピクロンの半減期は5~6時間程度。
ゾピクロンは向精神薬のため投与日数制限が30日まで、エスゾピクロンは向精神薬に該当せず、30日制限はない(2021年3月時点)。
エスゾピクロンは、投与期間に関わらず臨床的に問題となる副作用(依存性、持ち越し効果等)は認められなかった。長期投与による耐性の形成、投与離脱時の退薬症候や反跳性不眠も認められなかった(IFより)。
☑知らない人が多いが、実はセチリジンはヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス®)の主要代謝物である。
レボセチリジンは、セチリジンの半量でセチリジンと同等の抗アレルギー効果が得られるとされる。
セチリジンにはシロップ剤はないが、レボセチリジンにはシロップ剤がある。
企業戦略がうまくいったのか、セチリジンよりもレボセチリジンの方がよく処方される。
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