貧血とは
血液中の赤血球量が減少する状態を指します。赤血球数を測定するのは困難なため、通常はヘモグロビン(Hb)濃度[g/dL]を測定し、貧血の指標とします。
WHO(世界保健機構)の貧血の基準値は以下の通りです。
Hb濃度 | |
成人男性 | 13g/dL未満 |
成人女性 小児(6~14歳) |
12g/dL未満 |
妊婦 幼児(6か月~5歳) |
11g/dL未満 |
貧血の症状
貧血により十分な酸素を全身に運べなくなると、多彩な症状が出てくることがあります。
例)
●息切れ、動悸、頻脈
●疲れやすい、だるい、脱力感
●顔色が悪い、瞼の結膜が白くなる
●頭痛、めまい、失神発作、耳鳴り
貧血の鑑別に有用な指標:MCVと網(もう)赤血球(Ret:reticulocyte)
MCV:平均赤血球容積
mean corpuscular volume
MCVは赤血球1個の大きさを表し、基準値は81~100fL(fL:10-15/L)です。
大きさにより
小球性(~80)
正球性(81~100)
大急性(101~)に分類されます。
MCVと似た名前のものにMCHCがあります。
MCHC:平均赤血球ヘモグロビン濃度
mean corpuscular hemoglobin concentration
MCHCは単位容積赤血球あたりのヘモグロビン濃度を表します。
基準値は31~35%です。
濃度により
低色素性(~30)
正色素性(31~35)に分類されます。
検査値を見て何を表すのかは、次のVとCに着目すればわかると思います。
MCVのVはvolume(容積)→大きさ
MCHCのCはconcentration(濃度)→ヘモグロビン濃度
網赤血球(Ret)
骨髄で作られたばかりの若い赤血球です。骨髄の赤血球産生亢進に伴って増加し、造血能(赤血球産生能)の指標となります。
網赤血球(Ret)の基準値
網赤血球数(%):0.5~2.0% もしくは
絶対数:5万~19万/μL。
出血や溶血が起きると骨髄での赤血球産生が亢進し、Retが上昇します。
絶対数では5~19万が基準値ですが、10万以上のときはRetが増加していると考えます。
網赤血球(Ret)とMCVによる簡易鑑別方法
Retが上昇
白血球や血小板に異常がなく、ヘモグロビン濃度が低下している場合はまずRetを確認!
Retが高値の場合は溶血や出血を疑います。
溶血を起こすと、ハプトグロビン1)が減少し、ビリルビン2)、LDHが上昇します。
これらがないときは、出血を疑います。
参考:
1)溶血によりヘモグロビンが遊離すると、ハプトグロビンがヘモグロビンと迅速に結合します。
2)遊離したヘモグロビンが破壊されるとビリルビンになります。
Retが上昇していないとき
Retが上昇していないときは、MCVを確認します。
小球性貧血(MCV:~80)
●鉄欠乏性貧血
貧血の原因で一番多く、約7割を占めます。
血清鉄とフェリチンが減少し、総鉄結合能(TIBC)が上昇します。
これは必ず覚えましょう。
生理により鉄を失ったり、妊娠により鉄の需要が高まるので、鉄欠乏性貧血は女性に多いです。
鉄欠乏性貧血では、 動機、息切れ、易疲労感などのの症状のほか、爪がスプーン状に曲がったり、氷食症という氷を異常なほどに食べる行為が見られることがあります。
次の3つの貧血は遺伝性が多く、日本人ではまれです。
●サラセミア
ヘモグロビン合成障害による貧血です。
●無トランスフェリン血症
鉄を運搬するトランスフェリンが欠乏し、骨髄へ鉄を供給できずヘモグロビン産生が低下します。
●鉄芽球性貧血
骨髄での鉄利用が不十分で起こる、鉄利用障害性貧血です。
正球性貧血(MCV:81~100)
●再生不良性貧血
●赤芽球ろう
●骨髄異形成症候群
●白血病
●2次性貧血(悪性腫瘍、甲状腺機能低下症、腎性貧血、肝疾患に伴う貧血)
●出血・溶血(Retが上昇します)
など
大球性貧血(MCV:101~)
●巨赤芽球性貧血
大きく未熟な赤血球が見られる場合に疑います。
DNA合成に必須のV.B12、葉酸が欠乏することで起こります。
V.B12欠乏の原因
1)偏食
2)吸収阻害
ⅰ)悪性貧血:自己免疫化生性萎縮性胃炎による壁細胞の減少 → 内因子欠乏(内因子は胃の壁細胞から分泌されるため)→回腸でのV.B12吸収障害(V.B12の吸収には内因子が必要)
ⅱ)胃の切除:内因子欠乏
ⅲ)回腸を切除:V.B12の吸収部位が回腸
葉酸欠乏の原因
1)偏食
2)吸収阻害:メトトレキサート、フェニトイン、アルコールなど
3)妊娠
巨赤芽球性貧血のうち、61%が悪性貧血、34%が胃全摘、2%が葉酸欠乏です3)。
参考:3) 東邦大学医療センター 大森病院 臨床検査部
●巨赤芽球性貧血以外
白血病
骨髄異形成症候群
赤芽球ろう
アルコール性肝障害、肝硬変
腎性貧血
甲状腺機能低下症
出血・溶血(Retが上昇します)
などがある。
症例検討
例1)
動悸あり、眼瞼結膜が白い、Hb7.0g/dL、黒色便+、NSAIDs内服中。
消化管出血の疑いがあります。Retの確認もしましょう。
例2)
Ret正常、Hb8.5 g/dL、MCV 70fL
MCVが80未満なので、小球性貧血です。小球性貧血で1番多いのは鉄欠乏性貧血なので、まずは血清鉄、フェリチン、TIBCの確認をしましょう。
例3)
Ret正常、Hb10.0 g/dL、MCV 120fL、味覚障害あり。肝、腎、甲状腺異常はなし。
MCVが高値なので大球性貧血です。
赤血球の形態異常がないか確認し、異常があればV.B12、葉酸値を確認します。
味覚異常は亜鉛欠乏だけではなく、V.B12欠乏でも起こることがあるので知っておきましょう。
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