アセトアミノフェン(商品名カロナール)やNSAIDsを重篤な腎機能障害がある患者に投与すると、腎機能をさらに悪化させてしまう恐れがあるため、添付文書上は重篤な腎機能障害者に対して禁忌となっています。
しかし、透析患者ではすでに腎機能は失われており、これ以上の腎機能の悪化はないため、実際の現場では透析患者にアセトアミノフェンやNSAIDsの投与は行われています。
慢性腎不全(CKD)に関しては、米国のNational Kidney Foundationが「CKD 患者に鎮痛薬を使用するときはアセトアミノフェンを選択することを推奨する」と1996年に発表しています1)。
アセトアミノフェンはCOX‒2は阻害しないので、NSAIDsと異なり腎血流量の減少は起こしません。このため、アセトアミノフェンのCKD患者への短期投与においては、 NSAIDsより安全な可能性があります。ただし、アセトアミノフェンの長期投与時の安全性は不確定です2) 。
参考:
1) Henrich WL, et al. Analgesics and the kidney:summary and recommendations to the Scientific Advisory Board of the National Kidney Foundation from an Ad Hoc Committee of the National Kidney Foundation. Am J Kidney Dis. 1996;27:162‒165
2) エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
アセトアミノフェンについて
アセトアミノフェンは抱合体へ変換され、尿中排泄と胆汁排泄を受けます。
胆汁排泄されると腸内細菌により脱抱合を受け、アセトアミノフェンとして再び吸収されます。
透析患者を含む末期腎不全患者にアセトアミノフェンを投与すると、尿中排泄の代わりに胆汁排泄が増えるため、血中濃度が約3倍、半減期が約2倍になることが報告されています。
アセトアミノフェンを末期腎不全患者に連用するときは、1回600mg、1日3~4回まで可能と考えられています。
参考:アセトアミノフェンの腎不全における薬物動態を考えてみよう 平田純生
NSAIDsについて
ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)、セレコキシブ(商品名セレコックス)は保存期腎不全患者、透析患者でも減量の必要なしと考えられています1)(注意:添付文書では重篤な腎障害は禁忌)。
CKD stage 3~5 の患者のメタ解析では、
通常量のNSAIDs投与はCKD 進展のリスクとならず(pooled odds ratio 0.96、95% CI:0.86-1.07)、
高用量のNSAIDs投与はCKD 進展に統計学的に有意に関連する(pooled odds ratio 1.26、95% CI:1.06-1.50)と報告されています2)、3)。
参考:
1)透析患者への投薬ガイドブック 改訂第2版
2)薬剤性腎障害診療ガイドライン 2016
3)Fam Pract. 2013 Jun;30(3):247-55. doi: 10.1093/fampra/cms086. Epub 2013 Jan 8.
アセトアミノフェンとNSADIsによる腎障害
アセトアミノフェンによる腎障害には、腎乳頭壊死と石灰化、慢性間質性腎炎による慢性腎不全などがあります。
アセトアミノフェンの単独投与では腎障害を起こさず、アセトアミノフェン+アスピリンでそのリスクが高くなると考えられています。
NSAIDsによる腎障害には、
①腎細動脈に存在するCOX‒2を阻害
→プロスタグランジン(PG)合成の抑制
→腎血流量が減少、という機序で起こる急性腎障害や、
②急性間質性腎炎、間質性腎炎を伴うネフローゼ症候群、
③急性尿細管壊死などがあります。
COX‒2 選択阻害薬とCOX‒2非選択薬は、急性腎障害の発症頻度に差はなく、また、COX‒2 選択阻害薬とCOX‒2非選択薬を長期投与した場合、慢性的な腎機能低下の発症頻度にも明らかな差はないという報告があります1)。
参考:1)薬剤性腎障害診療ガイドライン2016
・添付文書上は禁忌だが、透析患者へのアセトアミノフェン、NSAIDsの投与は行われている。
・CKD患者に鎮痛薬を投与するなら、NSAIDsよりもアセトアミノフェンが推奨。このとき、短期投与が望ましい。
・ ただし、通常量のNSAIDs投与はCKD 進展のリスクとならないという解析もある。
・COX‒2 選択阻害薬とCOX‒2非選択薬では、腎機能悪化の発症頻度に差はないかもしれない。
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