アセトアミノフェン(商品名カロナール)
推定作用機序
解熱作用:
視床下部の体温中枢に作用し、末梢血管を拡張し熱放散を増大することで熱を下げます。
平熱時にはほとんど体温に影響はなく、発熱時には服用後3時間で効果が最大になります1)。
鎮痛作用:
視床と大脳皮質の痛覚閾値を上昇させ、痛みを感じにくくさせます1)。
また、脊髄から上行する痛み刺激を中枢側から抑制する、下行性疼痛抑制系の賦活も関わっていると考えられています2)。
☆ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)やセレコキシブ(商品名セレコックス)と異なり、COXを阻害せず中枢に働きかけ鎮痛作用を発揮します。
しかし、抗炎症作用はほとんどなく、アセトアミノフェンは「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」には分類されていません。
特徴
シロップ、坐剤、粉、錠剤と剤形が豊富で、小児の発熱や痛みに対しての第一選択薬として広く用いられています。
アセトアミノフェンはNSAIDsよりも胃を荒らしにくいです。
がん疼痛にも適応があり、1回300~1000mg、1日総量4000mgまで使用可能です。
*2011年から成人の鎮痛には1回1000mg、1日4000mgまで使用可能になりました。
インフルエンザの解熱にはNSAIDsよりもアセトアミノフェンが推奨されています3)。
アセトアミノフェンは妊娠中でも比較的安全に使用でき、授乳中にも使用可能な薬剤です4)。
ただし、一部の研究において妊娠中のアセトアミノフェンの使用と小児の喘息や、AD/HDなどとの関連が指摘されているため、不必要な副作用はさけることが原則です。
アセトアミノフェンは腎機能障害の副作用が少なく、慢性腎不全(CKD) 患者に解熱鎮痛薬を使用するときはアセトアミノフェンを選択することを推奨されています5)。
COX-1を阻害しないので、胃潰瘍などの副作用は少ないです。
腰痛症、片頭痛への使用が推奨されています6)。
急性腰痛治療におけるアセトアミノフェン(600mg/回、1日4回)の有効性は、ロキソプロフェン(60mg/回、1日3回)に劣らないことが示されました7)。
急性期の片頭痛に対する服用2時間後の鎮痛効果のメタ解析によると、
「アセトアミノフェン1000mg+メトクロプラミド10mg」と「スマトリプタン100mg」では有意差がないことが示されました8)。
参考:
1)カロナールのIF
2)製薬会社提供資料
3) 日本小児神経学会
4)妊娠・授乳とくすり
5) 慢性腎不全・透析患者にカロナール、ロキソニン、セレコックスは使えるか?
6)慢性疼痛治療ガイドライン
7) Miki K, et al. J Orthop Sci doi.org/10.1016/j.jos. 2018.02.007.
8)Cochrane Database Syst Rev. 2013 Apr 30;(4):CD008040.
ロキソニン、セレコックスなどのNSAIDs
作用機序
アラキドン酸から作られるプロスタグランジン(PG)が発熱や炎症、痛みに関わっています。
アラキドン酸⇒PGの変換にはCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素が必要です。
ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)やセレコキシブ(商品名セレコックス)はこのCOXを阻害することで作用を発揮します。
特徴
一般に、鎮痛作用・抗炎症作用はアセトアミノフェンより強いとされています。
その反面、潰瘍や消化管出血などの副作用などには注意する必要があります。
その発生頻度は、抗潰瘍薬による「予防治療」がされていないと、
胃潰瘍:10~15%
十二指腸潰瘍:3%
消化管出血:約1%
とされています。なお、潰瘍・出血は服用3か月以内に発生するリスクが高いです。(消化性潰瘍診療ガイドライン2015)。
また、浮腫を引き起こしたり、心不全を悪化させることもあります。
浮腫が起こる理由
NSAIDs投与
→Na+利尿作用のあるPGの産生が減少
→Na+の貯留と同時に水も貯留
NSAIDsはPG産生の抑制により腎血流量の低下を招き、まれに急性腎障害(AKI:Acute kidney injury)を起こすことがあります。長期使用、高齢者、脱水などはそのリスクを高めます。
NSAIDs投与期間中のAKI発症率は、投与していない期間と比べ1.27倍(95%信頼区間 1.14-1.41 P:<0.01)と有意に上昇しました。
アセトアミノフェン投与期間中のAKI発症率は、投与していない期間と比べ1.03倍(95%信頼区間 0.95-1.12 P:0.49)でした。
(Clin Epidemiol. 2018; 10: 265–276.Published online 2018 Mar 6. doi: [10.2147/CLEP.S158110])
NSAIDsは妊娠後期には使用できません。
妊娠後期に使用するとPGの合成が阻害され、胎児の動脈管が収縮し、血液が肺動脈に流れ込み、肺高血圧や心不全を惹起してしまうことがあるためです。
心筋梗塞後の「抗血栓療法中」の患者にNSAIDsを併用すると、短期間であっても出血や心血管イベントリスクを増大します。
NSAIDs併用群は非併用群と比較して、
出血リスクは2.02倍(ハザード比:2.02、95%信頼区間:1.81~2.26)、
心血管イベントリスクは1.40倍(同:1.40、1.30~1.49)増大しました1)。
NSAIDsは次の「非選択的COX阻害薬」と「COX-2選択的阻害薬」に分類できます。
非選択的COX阻害薬
アスピリン、イブプロフェン(商品名ブルフェン)、ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)、ジクロフェナク(商品名ボルタレン)などがあります。
COXにはCOX-1とCOX-2があります。
COX-1は胃・十二指腸粘膜の血流を増加させるPGの産生に、
COX-2は痛みや炎症、熱を引き起こすPGの産生に関わっています。
非選択的COX阻害薬はCOX-1と2の両方を阻害します。
COX-2を阻害することで鎮痛・抗炎症・解熱作用を発揮する一方で、COX-1も阻害してしまうため胃腸障害を引き起こすことがあります。ひどいときには潰瘍になることもあるため、注意が必要です。
ロキソプロフェンは解熱鎮痛薬としてよく使用されます。
ロキソプロフェンはプロドラッグで、消化管から吸収されたのち活性代謝物に変換されて作用します。活性代謝物のTmaxは約50分と効果は比較的早いです。
イブプロフェンとロキソプロフェンの添付文書には、
「授乳中の婦人に投与することを避け、やむをえず投与する場合には授乳を中止させること」と記載されていますが、イブプロフェン、ロキソプロフェンは授乳中にも使用可能と考えられています2)3)。
COX-2選択的阻害薬
セレコキシブ、エトドラク(商品名ハイペン)、メロキシカム(商品名モービック)などがあります。
COX-2を選択的に阻害する一方で、COX-1阻害作用が弱いため、非選択的COX阻害薬よりも胃腸障害が少ないです。
セレコキシブ、エトドラク
痛み・炎症に関する適応があります。
一方、解熱に対する適応はありませんが、セレコキシブはラットを用いた試験で、エトドラクは非臨床試験で解熱効果が確認されています4)5)。
9万件の心不全入院例と対照群800万人のデータから、セレコキシブは一般的に使用される用量で心不全の入院リスクを高めませんでした。
なお、27種類のうち9つのNSAIDsが心不全の入院リスクを増やすという解析結果でした7)。
<9つのNSAIDs>
seven traditional NSAIDs (diclofenac, ibuprofen, indomethacin, ketorolac, naproxen, nimesulide, and piroxicam) and two COX 2 inhibitors (etoricoxib and rofecoxib)
メロキシカム
セレコキシブ、エトドラクが通常1日2回服用なのに対し、メロキシカムは1日1回で痛みをコントロールできるというのが特徴です。
しかし、1日1回で十分な疼痛コントロールをするのは難しい印象を受けます(筆者体験談)。
セレコキシブVSロキソプロフェン
●セレコキシブはCOX-1阻害作用が弱いため、ロキソプロフェンよりも胃を荒らしにくいです6)。
●セレコキシブのTmaxは約2時間で、ロキソプロフェンより効果の発現が遅いです。
●薬価はロキソプロフェンの方が安いです。
●ロキソプロフェンは急性上気道炎の解熱・鎮痛、頭痛に使用できますが、セレコキシブは保険適応がないため使用できません。
おまけ:鎮痛作用の効力について
エトドラク200mg
≒セレコキシブ200mg
≒アセトアミノフェン1000mg
くらいという報告があります8)。
参考
1)JAMA. 2015 Feb 24;313(8):805-14.
2)妊娠・授乳とくすり
3)薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳
4)セレコックスのIF
5)ハイペンのIF
6)Aliment Pharmacol Ther. 2013 Feb;37(3):346-54.
7)BMJ. 2016 Sep 28;354:i4857. doi: 10.1136/bmj.i4857.
8)Cochrane Database Syst Rev. 2009 Jul 8;(3):CD007357.
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