アベロックスとラスビックは腎機能が悪くても減量不要、通常量が使用可能
ニューキノロン系抗生剤は、呼吸器感染症や尿路感染症など幅広い感染症の治療に使用される重要な薬剤だ。
しかし、多くのニューキノロン系薬剤は腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している患者では用量調整が必要となる。たとえば、日本で広く使用されているレボフロキサシン(クラビット®)は、腎機能に応じた減量が推奨されている。
~レボフロキサシンの処方例~
通常、成人にはレボフロキサシンとして1回500mgを1日1回経口投与だが、
腎機能が落ちてくると以下のように調節することが望ましい。
クレアチニンクリアランス (CLcr)値(mL/min) |
用法及び用量 |
20≦CLcr<50 | 初日500mgを1回 2日目以降250mgを1日に1回 |
CLcr<20 | 初日500mgを1回 3日目以降250mgを2日に1回 |
参考:電子添文
高齢者では一般に腎機能が低下しているので、高齢者にレボフロキサシンが1回500mgで処方されていたら腎機能をチェックしよう。
また、高齢者ではなくても、カリウムを下げるような薬、例えばロケルマ®やポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー(旧名称アーガメイトゼリー)などを飲んでいたら腎機能が悪いのかな?と思うようにしよう。
さて、実はニューキノロン系の薬でも腎機能が悪くても通常量が使えるものがある。
それはアベロックス®(モキシフロキサシン)とラスビック®(ラスクフロキサシン)だ。
2005年に発売されたアベロックス®は禁忌の項目も多く、QT延長の副作用や特定の抗不整脈薬とは併用禁忌だったりで、積極的に使用されることは少ない薬剤だ。
アベロックス®は未変化体が活性を持ち、主に肝臓で代謝されてできる代謝産物は不活性。
健康成人男子(外国人)6例にモキシフロキサシン400mgを単回経口投与した時の、投与後96時間までにの排泄率のデータがある(電子添文)。
尿中:投与量の約35%
(未変化体:約19%、硫酸抱合体:約3%、グルクロン酸抱合体:約14%)
糞中:投与量の約61%
(未変化体:約25%、硫酸抱合体:約36%)
糞便中への排泄が多く、腎臓からの排泄は比較的少ない。
以下の図はIFより。

アベロックス®を腎機能低下例に投与するとどうなるのか?
電子添文によると
●腎障害患者24例に400mgを単回経口投与した場合、腎機能の低下に伴い未変化体の尿中排泄率及び腎クリアランスは低下したが、血漿中濃度推移に変化は認められなかった。
●血液透析患者及び連続携行式腹膜透析(CAPD)患者の各8例に400mgを1日1回7日間反復経口投与した場合にも、全身クリアランスの低下はみられず、定常状態と初回投与時で未変化体の血漿中濃度推移に変化はなく蓄積性も認められなかった。
これらのことから、アベロックス®には腎機能低下時の投与量の減量設定はされていない。
ラスビック®は2020年1月から発売された比較的新しい抗生剤だ。
ラスビック®もアベロックス®と同じように肝代謝型の薬剤である。
高度から軽度の腎機能低下者の腎機能正常者に対する AUClast比は 0.798~1.16である(IF)。

興味深いことに、腎機能が悪いほどAUCが低い傾向になっているが、血漿中のラスクフロキサシンの薬物動態パラメータ(AUC、Cmax、半減期など)は、腎機能正常者とほぼ同様であると言える。
なお、健康成人にラスクフロキサシン75mgを単回経口投与したとき、投与後144時間までの未変化体の排泄率は、尿中に8.38%、糞中に16.0%であった。
個人的には、ラスビック®をどのような場面で他のニューキノロン系よりも積極的に使えばいいのかはわからないが、あえていうなら腎機能が悪くても用量が調節不要な点はメリットが高いと言えるだろう。
高齢者にレボフロキサシン処方→腎機能悪くて問い合わせ→用量変更 というのはよくある問い合わせだ。ラスビック®の使用でそういったことが解消されるかもしれない。
レボフロキサシンとラスクフロキサシンの比較試験
以下電子添文より。
肺炎:国内第Ⅲ相二重盲検比較試験
市中肺炎患者277例を対象
ラスクフロキサシン(75mg1日1回7日間投与)とレボフロキサシン(500mg1日1回7日間投与)の比較
副鼻腔炎:国内第Ⅲ相二重盲検比較試験
副鼻腔炎患者279例を対象
ラスクフロキサシン(75mg1日1回7日間投与)とレボフロキサシン(500mg1日1回7日間投与)の比較
ラスビック®の基本情報
<特徴>
国内で創製した新しいキノロン系抗菌薬。
<作用機序>
細菌のDNAジャイレース及びトポイソメレースⅣを阻害し、殺菌的に作用する。
<用法用量>
1回75mgを1日1回。
腎機能低下、肝機能低下での用量の調整は電子添文には記載なし。
<重要な基本的注意>
大動脈瘤、大動脈解離を引き起こすことがあるので、観察を十分に行うとともに、腹部、胸部又は背部に痛み等の症状があらわれた場合には直ちに医師の診察を受けるよう患者に指導すること。
<その他注意>
高齢者では腱障害があらわれやすいとの報告がある。
<併用注意>
アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛を含有する製剤
→本剤とキレートを形成し吸収が悪くなる
モンテルカストとの併用は注意??
健康成人10例にモンテルカスト5mgとラスクフロキサシン150mg※を併用投与したとき、モンテルカストのCmax及びAUClastはそれぞれ1.41倍及び1.94倍に増加した。
※承認された用量は75mgである。

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