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心臓

エンレストの作用機序、特徴、注意点。新しい心不全治療薬について解説。

サクビトリルバルサルタン(商品名エンレスト)はどんな薬?

ガイドラインで推奨される治療を行っても、心不全の死亡率や入院率は高く、新しい治療法の開発が期待されていた。

エンレスト®は
慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)
を効能又は効果として、2020年6月に製造販売承認を取得した新しい心不全治療薬

海外では 2015年7月に最初に米国で承認されて以降、既に100ヵ国以上で承認されている。

エンレスト®は、有効成分としてネプリライシン阻害作用をもつサクビトリルと、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)であるバルサルタンを1:1のモル比で含有する単一の結晶複合体である。

規格は50mg、100mg、200mgとあり、例えば100mg錠ではバルサルタンを51.4mg含有している。

注! 2021年9月に「高血圧症」として効能が追加されました!

 

特徴

エンレスト®は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象にした海外第III相PARADIGM-HF試験において、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるエナラプリルと比較し、「心血管死」および「心不全による入院からなる複合エンドポイントのリスク」を有意に20%減少させた。
そして、エナラプリルと比較して「全死亡の発現リスク」を16%有意に低減させた。
滅茶苦茶すごい成績。

欧米ガイドラインでは、標準治療でなお症状を有するHFrEF患者において、ACE阻害薬[忍容性のない場合はARB]からエンレストへの変更が推奨されている(推奨クラスⅠ、エビデンスレベル B)

心不全は進行性の病態であり、ステージに応じた適切な治療介入が大切である。
以下の図はエンレスト®の製品パンフレットより。

 

 

作用機序

エンレスト®は、ナトリウム利尿ペプチドの作用亢進と、アンジオテンシンⅡの作用抑制を併せ持つ、新しい薬。

 

エンレスト®は、サクビトリル及びバルサルタンに解離することで、1 剤でネプリライシン(NEP)阻害作用アンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体拮抗作用の2つの薬理作用を発揮する。

ネプリライシン(NEP)とは?

様々なペプチドを分解する酵素で、その基質として心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などのナトリウム利尿ペプチド(NP)がある。

後述するが、アンジオテンシンIIも分解する。


サクビトリル
は、エステラーゼによりNEP阻害の活性体であるsacubitrilatに速やかに変換される。
NEP阻害により、ナトリウム利尿ペプチドの循環血中濃度が上昇

ナトリウム利尿ペプチドは、アルドステロン分泌抑制作用、利尿作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、血管拡張作用などの多面的な作用を示す。


バルサルタン
のAT1受容体拮抗作用は、心肥大、心血管リモデリング異常に対する抑制作用をもたらす。

NEP とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 (RAAS)を同時に阻害することで慢性心不全患者の神経体液性因子のバランス破綻を是正し、慢性心不全患者における「心血管死」及び「心不全による初回入院のイベントリスク」の減少の有効性が示されている

慢性心不全にはネプリライシン阻害薬のサクビトリルだけでダメなのか?

結論からいくと、慢性心不全に対しては、ネプリライシン阻害薬の単独服用では効果は得られないため、ARBの併用が必要。

ネプリライシンはアンジオテンシンIIも分解する。ネプリライシンだけを阻害すると、アンジオテンシンIIの分解が抑制され、レニン・アンジオテンシン(RA)系が亢進し、血圧上昇や血管収縮などを引き起こしてしまう。

ARBを併用することでRA系を抑制し、ネプリライシン阻害薬による効果が得られるようになる。

効能効果、用法用量

以下の2つの適応があり、1日の服用回数がそれぞれ異なることを覚えよう。

慢性心不全:
エンレスト®錠50mg・100mg・200mgが使用可能。

使用時には以下の注意点がある。
慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に使用する。
②ACE阻害薬もしくはARBから切り替えて使用する。

通常、1回50mgを開始用量として1日2回服用。
2~4週間の間隔で段階的に1回100mg、1回200mgへと増量する。
ただし、忍容性に応じて適宜減量する。

 

高血圧症:
エンレスト®錠100mg・200mgが使用可能。
50mgは適応がないため要注意。

過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと、となっている。

通常、1回200mgを1日1回服用。
適宜増減するが、最大投与量は1日1回400mgまで。

慢性心不全:
1日2回服用。徐々に量を増やす。
慢性心不全の第一選択薬ではなく、切り替えて使用する。

高血圧:
1日1回服用。
高血圧治療薬の第一選択薬ではない。

 

腎機能障害時の投与量

<eGFR: 30~89/min/1.73m2
慢性心不全・高血圧
→血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること

<eGFR: ~29mL/min/1.73m2
慢性心不全
→臨床試験では除外されていた。投与する場合には血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。

高血圧
低用量から開始することを考慮し、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。

腎機能障害でも投与可能だが、K値、腎機能には注意!

 

併用禁忌

●アンジオテンシン変換酵素阻害薬
併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる可能性がある。

ACE阻害薬からエンレスト®への切り替え時には、少なくともエンレスト®の開始36時間前にはACE阻害薬の投与を中止する。
このことは盲点になりやすいのでよく注意しておくこと。

●アリスキレン(商品名ラジレス)(糖尿病患者に投与する場合
非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加がバルサルタンで報告されている。

 

併用注意

●アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがあるため、これらの薬剤と併用すべきでない。

エンレスト®はバルサルタン(ARB)へと解離するのだから、当たり前である。

●アリスキレン(商品名ラジレス)
腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがある。
なお、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の腎機能障害のある患者へのアリスキレンの併用については、治療上やむを得ないと判断される場合を除き避けること。

●カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノン等)
血清カリウム値及び血清クレアチニン値が上昇するおそれがある。

副作用

バルサルタンの影響と思われるが、低血圧の報告が10%程度あるため、血圧モニタリングは必須である。

参考:エンレスト®添付文書、インタビューフォーム

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