ARBの基本情報
●体内には、血圧上昇に関わるアンジオテンシンⅡという物質があります。
このアンジオテンシンⅡがアンジオテンシンⅡ受容体に作用することで、血管が収縮し、またアルドステロン(注1)という物質が分泌され体内の血圧が上昇します。
注1)アルドステロン:体内にナトリウムと水分を溜めることで循環血液量を増やし、血圧を上昇させます。
●ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)とは、アンジオテンシンⅡが受容体に作用するのを阻害することで血圧の上昇を抑制し、血圧を下げるお薬です。
●ただ血圧を下げるだけではなく、腎臓と心臓にかかるダメージを減らします。
これを腎保護作用、心保護作用と言います。
―腎保護作用―
腎臓に過度の圧力がかかると腎臓が悪くなります。ARBは、腎臓内の血管(輸出細動脈)を広げることで、腎臓の内部にかかる圧力(糸球体内圧)を減らします。
これに伴い、腎機能を悪化させるタンパク尿を減らす効果もあります。
このような効果により、腎臓にかかる負担が減り、腎臓が悪くなるのを抑え、腎臓の機能を長持ちさせることが期待できます。
―心保護作用―
アンジオテンシンⅡは心不全や心肥大を悪化させることがわかっています。
ARBにより、アンジオテンシンⅡの作用を阻害することで、心不全や心肥大の悪化を抑えることが期待できます。
●わずかながら、インスリンの効きが良くなる効果があります。
●このように、血圧を下げる以外の効果も持っているのが特徴で、この効果は類似薬のACE阻害薬にも共通です。
●左室肥大、LVEFの低下した心不全、心筋梗塞後、タンパク尿/微量アルブミン尿を有するCKDを合併している場合、ARBは積極的適応となります(高血圧ガイドライン2019)。
●ARBは、高血圧患者の多くの症例で第一選択薬となりえるお薬です。
●カルシウム拮抗薬と違い、グレープフルーツの影響はないとされています。
●糖尿病の人は、高血圧治療薬のアリスキレン(商品名ラジレス)と、ARBを一緒に飲むことは一般に推奨されていません。一緒に飲むことで、脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されているためです。ただし、血圧のコントロールが非常に困難な時には一緒に処方されることもあります。
●妊婦、または妊娠している可能性のある婦人には使用できないお薬です。
●副作用として、血清カリウム上昇、血清クレアチニン上昇などが起こるときがあります。
K保持性利尿薬(薬剤名アルダクトンA、セララなど)の併用時は高K血症に注意が必要です。
ACE阻害薬と異なり、痰の絡まない乾いた咳(空咳:からせき)は起こらないとされます。
ARBで血清クレアチニンが上昇する理由は?
腎輸出動脈を拡張し糸球体内圧を減らすので、糸球体ろ過量は減ります。
糸球体ろ過量が減った分だけ、本来なら腎臓でろ過されるクレアチニンが血液中に残るため、見かけ上、血清クレアチニンが上昇することがあります。
服用前後で、血清クレアチニンの上昇が30%以内であれば、そのまま継続投与してよいとされています(参考:CKD診療ガイド)。
ARBによる急性腎障害
高齢者は全身血圧が少し下がっただけでも、もともと低かった糸球体内圧がさらに下がり、急性腎障害をきたす恐れがあることに注意。
リスク増大の薬にNSAIDsがあります。NSAIDsは糸球体「輸入」細動脈の収縮が起こりうるためです。
ARBの種類
血圧を下げる効果がやや弱い~マイルドなもの
ロサルタン(薬剤名ニューロタン)
●最初に誕生したARBです。血圧を下げる効果はやや弱いですが、臨床試験が豊富です。
●尿酸値を低下させる効果もあり(J Pharmacol Exp Ther. 2007 Jan;320(1):211-7.)、高血圧で尿酸値も高い人に向いています(Am J Hypertens. 2008 Oct;21(10):1157-62. )。
●2型糖尿病(ただし、高血圧かつタンパク尿を伴う場合)における糖尿病性腎症の治療にも使用されます。
●血圧を下げる効果がやや弱いため、血圧を下げすぎずに腎保護作用を狙って処方されるケースもあります。
カンデサルタン(薬剤名ブロプレス)
●血圧を下げる効果はマイルドで、臨床試験が豊富です。
●慢性心不全の治療にも使用されます。
●慢性心不全の進行を抑制し(Eur J Heart Fail. 2003 Oct;5(5):669-77.)、心不全患者の入院と、死亡率を減少させた(Lancet. 2003 Sep 6;362(9386):772-6.)という報告があります。
●ジェネリックには唾液で溶けて水なしで飲めるOD錠があり、錠剤が飲みこみにくい人に向いています。
バルサルタン(薬剤名ディオバン)
●血圧を下げる効果はマイルドです。
●効果の持続時間が他のARBと比べるとやや短く、1日1回で効果が不十分な時は1日2回で処方されることもあります(1日2回の使用は保険適応外です)。
●小児の高血圧症にも使用できます。
●唾液で溶けて水なしで飲めるOD錠があり、錠剤が飲みこみにくい人に向いています。
血圧を下げる効果が割と強い~強いもの
テルミサルタン(薬剤名ミカルディス)
●血圧を下げる効果は割と強いです。
●肝障害がある人や胆汁の分泌が悪い人では、お薬が体内に残りやすくなり副作用が出やすくなる可能性があるので注意が必要です。
●食後よりも、空腹時に服用すると吸収がよいことが報告されています。
●細胞の核内にあるPPARγ(ピーパーガンマ)を刺激し1)2)、インスリン抵抗性を改善するとされています2)。
●健康成人及び患者において、40mg以上の投与量で用量比以上の曝露の上昇(非線形性)がみられ、Cmaxでその傾向は顕著であることが確認されています。
その機序として、小腸壁での抱合能の飽和及び肝臓への分布の飽和の関与が考えられています3)。
上記グラフ、表はミカルディスの添付文書より。
イルベサルタン(薬剤名アバプロ、イルベタン)
●血圧を下げる効果は割と強いです。
●尿酸値を低下させる効果もあり、高血圧で尿酸値も高い人に向いています。
●腎症に対し豊富な臨床試験の成績があり、腎保護作用が実証されています4)。
●細胞の核内にあるPPARγを刺激し1)4)、脂質・糖代謝を改善する作用があるとされています4)。
参考:
1) Clin Ther. 2010 Mar;32(3):492-505.
2)製薬会社公開資料(リンク切れ)
3)ミカルディス添付文書
4)製薬会社公開資料
オルメサルタン(薬剤名オルメテック)
●血圧を下げる効果は強いです。
●唾液で溶けて水なしで飲めるOD錠があり、錠剤が飲みこみにくい人に向いています。
アジルサルタン(薬剤名アジルバ)
●カンデサルタン(薬剤名ブロプレス)を改良してできたのが、アジルサルタンです。
●血圧を下げる効果は強く、ARBの中では一番新しいお薬ですが使用量は着実に増えてきています。
●夜間高血圧や早朝高血圧を改善する効果があります5)。
参考:5)アジルバIF
●Twitterをやっています!【くすりカンパニー】。
「お仕事の依頼」・「当サイトに記事を載せたい方」・「当サイトの記事を使いたい方」・「当サイトをご支援していただける方」を募集中!DMにてご連絡ください。