ACE阻害薬の基本情報
●体内には、血圧上昇に関わるアンジオテンシンⅡという物質があります。
これは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を受けて、アンジオテンシンⅠから作られます。そして、アンジオテンシンⅡがアンジオテンシンⅡ受容体に作用することで、血圧が上昇します。
●この一連の反応の中で、ACEの働きを阻害し、アンジオテンシンⅡが作られるのを抑えて血圧を下げるのがACE阻害薬です。
●ただ血圧を下げるだけではなく、腎臓と心臓にかかるダメージを減らします。
これを腎保護作用、心保護作用と言います。
―腎保護作用―
腎臓に過度の圧力がかかると腎臓が悪くなります。ACE阻害薬は、腎臓内の血管(輸出細動脈)を広げることで、腎臓の内部にかかる圧力(糸球体内圧)を減らします。
これに伴い、腎機能を悪化させるタンパク尿を減らす効果もあります。
このような効果により、腎臓にかかる負担が減り、腎臓が悪くなるのを抑え、腎臓の機能を長持ちさせることが期待できます。
―心保護作用―
アンジオテンシンⅡは心不全や心肥大を悪化させることがわかっています。
ACE阻害薬により、アンジオテンシンⅡが作られるのを抑えることで、心不全や心肥大の悪化を抑えることが期待できます。
●ACE阻害薬には、わずかながら、インスリンの効きが良くなる効果があります。
●このように、血圧を下げる以外の効果も持っているのが特徴で、この効果は類似薬のARBにも共通です。
●また、ACE阻害薬は心筋梗塞後の心血管合併症を減少させ生命予後を改善することが示されています(参考:心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版))。
心筋梗塞の二次予防効果目的おいては、ARBよりもACE阻害薬の方が推奨されています(参考:高血圧ガイドライン2014)。
●左室肥大、心不全、心筋梗塞後、慢性腎不全、脳血管障害慢性期、糖尿病などの合併症があるときはACE阻害薬を積極的に使用することが推奨されています(参考:高血圧ガイドライン2014)。
●高血圧患者の多くの症例で、第一選択薬となりえるお薬なのですが、ACE阻害薬よりもカルシウム拮抗薬や、類似薬のARBの方が処方される頻度が高いです。
●その理由として、日本のACE阻害薬の最大投与量は欧米と比べて少量に設定されているのが多く、降圧効果が物足りなく感じることがあるのかもしれません。
●カルシウム拮抗薬と違い、グレープフルーツの影響はないとされています。
●糖尿病の人は、高血圧治療薬のアリスキレン(薬剤名ラジレス)と、ACE阻害薬を一緒に飲むことは一般に推奨されていません。一緒に飲むことで、脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されているためです。
ただし、血圧のコントロールが非常に困難な時には一緒に処方されることもあります
●妊婦、または妊娠している可能性のある婦人には使用できないお薬です。
●副作用として、痰の絡まない乾いた咳(空咳:からせき)、血清カリウム上昇、血清クレアチニン上昇などが起こるときがあります。
●空咳は飲み続けていくうちに出にくくなることもあります。また、空咳は服用を中止すればすぐに症状は出なくなります。
●ACE阻害薬は肺炎のリスクを減らすという報告があります(BMJ. 2012 Jul 11;345:e4260. doi: 10.1136/bmj.e4260.)。
空咳を逆手にとって、誤嚥性肺炎の予防を期待するときもありますが、誤嚥性肺炎予防の「保険適応」はないことに注意が必要です。
●なお、類似薬のARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)では空咳は起こらないとされています。
●一方で、ACE阻害薬は肺がんリスクの上昇に関係しているという報告(BMJ 2018; 363 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k4209)もあり、今後の詳細な検討が待たれます。
発展事項
血清クレアチニンが上昇する理由とは?
腎輸出動脈を拡張し糸球体内圧を減らすので、糸球体ろ過量は減ります。糸球体ろ過量が減った分だけ、本来なら腎臓でろ過されるクレアチニンが血液中に残るため、見かけ上、血清クレアチニンが上昇することがあります。
服用前後で、血清クレアチニンの上昇が30%以内であれば、そのまま継続投与してよいとされています(CKD診療ガイド)。
空咳がでるメカニズムとは?
実は、ACEは2つの作用があります。
1つは上記でも説明したように、アンジオテンシンⅠに作用してアンジオテンシンⅡへの変換に関わります。
もう1つは、ブラジキニンという物質を分解する作用があります。
ACE阻害薬はブラジキニンの分解を抑制するので、ブラジキニンが増えます。気道で増えたブラジキニンが気道を刺激し、これにより咳が出ると考えられています。
ACE阻害薬の種類と特徴
よく使用されるものはこの2つ
エナラプリル(薬剤名レニベース)
●臨床試験が豊富で、ACE阻害薬の中でもよく使用されています。
●高血圧の治療だけでなく、慢性心不全の治療にも使用されます。
参考:
〇重度のうっ血性心不全患者の症状を改善し、また死亡率を低下。
(N Engl J Med 1987; 316:1429-1435)
〇慢性うっ血性心不全患者の死亡率および入院率を低下。
(N Engl J Med 1991; 325:293-302)
〇無症候性の左心室機能不全の患者の心不全の発生率を低下(N Engl J Med 1992; 327:685-691)し、生命予後を改善する(Lancet. 2003 May 31;361(9372):1843-8.)。
●慢性心不全患者の心臓サイズを縮小し、心肥大の抑制効果があります1)。
●小児の高血圧の治療にも使用可能です。
●授乳中にも使用が可能と考えられているお薬の1つです2)。
イミダプリル(薬剤名タナトリル)
●高血圧の治療だけでなく、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の治療にも使用されます。
●日本で初めて糖尿病性腎症の効能・効果を取得したACE 阻害薬で、タンパク尿を減少させ、腎機能低下の進行を抑制します3)。
●空咳(痰の絡まない咳)の副作用の頻度は、他のACE阻害薬より少ないとされています。
上記以外にもまだまだ種類はあります
リシノプリル(薬剤名ゼストリル、ロンゲス)
●高血圧の治療だけでなく、慢性心不全の治療にも使用できます。
●慢性心不全患者の心機能ならびに自覚症状を改善します4)。
以下の薬剤は高血圧の治療だけに適応があります。
テモカプリル(薬剤名エースコール)
●承認されているACE 阻害薬の多くが、主に尿中に排泄されるのに対して、本剤は主に胆汁中へ排泄されます。日本初の胆汁・腎排泄型ACE 阻害薬に分類されます5)。
その他
ペリンドプリル(薬剤名コバシル)
カプトリル(薬剤名カプトリル)
アラセプリル(薬剤名セタプリル)
デラプリル(薬剤名アデカット)
シラザプリル(薬剤名インヒベース)
ベナゼプリル(薬剤名チバセン)
キナプリル(薬剤名コナン)
トランドプリル(薬剤名オドリック、プレラン)
参考:
1)レニベースIF
2)高血圧ガイドライン2014
3)タナトリルIF
4)ゼストリルIF
5)エースコールIF
【適応症について】
慢性心不全に適応あり
→エナラプリルとリシノプリル
糖尿病性腎症に適応あり
→イミダプリル
なお、保険適応外になりますが、イミダプリル以外のACE阻害薬も糖尿病性腎症に使用されることがあります。
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