抗生剤で低血糖を起こす可能性のある薬剤
ピボキシル基を有する抗生剤は低血糖を起こす可能性がある。
セフカペン ピボキシル(フロモックス®)
セフジトレン ピボキシル(メイアクト®)
セフテラム ピボキシル(トミロン®)
テビペネム ピボキシル(オラペネム®)
ピボキシル基を有する抗生剤で低血糖に至る機序 ~カルニチンの働きとは~
ピボキシル基を有する抗生剤は、消化管吸収を促進する目的で、活性成分本体にピバリン酸がエステル結合されている。
これらの薬は吸収後、代謝を受けてピバリン酸と活性本体になる。
その後、ピバリン酸はカルニチン抱合をうけピバロイルカルニチンとなり、尿中へ排泄される。
この結果、血清カルニチンが低下することが知られている。
カルニチンは、ミトコンドリア内での脂肪酸β酸化に必須な因子である。
空腹、飢餓状態では通常、脂肪酸β酸化によって必要なエネルギーを確保し、糖新生を行う。
しかし、血清カルニチンが過度に低下し、カルニチン欠乏状態だと脂肪酸β酸化ができず、糖新生が行えないため低血糖となる。
なお、血清カルニチンが低下する先天性代謝異常であることが判明した場合にはピボキシル基を有する抗生物質の投与はしないこと。
また、ピボキシル基を有する抗生物質を投与する際は、以下のことに注意をすること。
●小児(特に乳幼児)への投与においては、血中カルニチンの低下に伴う低血糖症状(意識レベル低下、痙攣等)に注意。
●長期投与に限らず、投与開始翌日に低カルニチン血症に伴う低血糖を起こした報告もある。
●妊婦の服用により出生児に低カルニチン血症が認められた報告もある。
その他、低血糖のリスクがある薬剤
●レボフロキサシン(クラビット®):
膵β細胞ATP感受性K+チャネルを閉鎖し、インスリン分泌を促進して低血糖を引き起こす。また、末梢組織でのインスリン感受性亢進作用も低血糖の要因と考えられている。
●ジソピラミド(リスモダン®カプセル、リスモダン®R錠):
動物実験において本剤がインスリン分泌を促進するとの報告があり、血糖値を下げる薬との併用によって血糖降下作用が増強される可能性がある。
●シベンゾリン(シベノール®):
動物実験において、本剤高用量投与時にインスリン分泌亢進が認められるとの報告があり、血糖値を下げる薬との併用により血糖降下作用が増強される可能性がある。
シベンゾリンの禁忌:透析中の患者[急激な血中濃度上昇により意識障害を伴う低血糖などの重篤な副作用を起こしやすい。(本剤は透析ではほとんど除去されない。)]
●ACE阻害薬、ARB:
インスリン抵抗性改善作用があるとされ、添付文書には低血糖の記載がある。
ACE阻害薬:インスリン又は経口血糖降下剤とACE阻害薬を併用すると、低血糖が起こりやすいとの報告がある。
ARB:低血糖があらわれることがある(糖尿病治療中の患者であらわれやすい)
コレスチミド(コレバイン®):
高コレステロール血症の治療薬であるコレバイン®は、血糖値改善効果があると報告されている。
カルニチン欠乏症の症状
カルニチンが欠乏すると
●重度の倦怠感、痙攣、意識障害、低血糖発作
●筋力低下、重度のこむら返り、横紋筋融解症
●呼吸異常、心肥大、心筋症、心機能低下
などの症状が出ることがある。
カルニチンが欠乏する理由としては
1:先天代謝異常
2:血液透析・腹膜透析
3:カルニチンを含まない経管栄養、完全静脈栄養
4:薬剤
など。
遊離カルニチン濃度が<20 μmol/Lの場合は
「カルニチン欠乏症が発症している」
or
「いつカルニチン欠乏症が発症してもおかしくない状態」
と診断する。
なお、カルニチン欠乏症を起こす薬剤として知られているのは
●抗てんかん薬:
デパケン®、フェノバール®、アレビアチン®、テグレトール®
●ピボキシル基を有するプロドラッグ:
フロモックス®、メイアクト®、トミロン®など
●プラチナ製剤:
シスプラチンなど
参考:
●重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖
●各種電子添文
●ピボキシル基を有する抗菌薬投与による 小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について
●カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018
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