抗認知症薬の基本情報
コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)
記憶形成、認知機能にはアセチルコリンが関わっています。
ChEIはアセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)を阻害し、アセチルコリンを増やすことで認知機能と日常生活動作を改善します。
ChEIにはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3つがあります。
このうちドネペジルとガランタミンはアルツハイマー型認知症に伴う「行動障害」に関しても有効です1)。
ドネペジルは軽度~高度、ガランタミンとリバスチグミンは軽度~中等度アルツハイマー型認知症に適応があります。
「認知機能」を改善する効果については、ChEIの3つの薬剤で大きな違いはありません1)2)3)4)。
ChEIの服用初期の副作用には吐き気、嘔吐、下痢などがあります。
ChEIは単独使用、もしくはメマンチンと併用して使用します。
どのChEIを選ぶかは、患者に合った剤形(飲み薬、貼り薬)や服用(使用)回数、症状などで決めることになりそうです。
薬剤選択の例
家族が日中いない場合
→1日1回のドネペジル、リバスチグミン
内服薬が多いので内服薬を増やしたくない
→貼付薬のリバスチグミン
患者の服薬介助を毎日できない場合
→血中半減期の長いドネペジル
嚥下機能が落ちている
→ゼリー剤(ドネペジル)、液剤(ガランタミン)
認知症の症状が高度
→ドネペジル
カルバマゼピン・フェニトイン・フェノバルビタール服用中
→ガランタミン、貼付薬のリバスチグミン
NMDA受容体拮抗薬
日本ではメマンチン(商品名メマリー)が発売されています。
アルツハイマー型認知症では、グルタミン酸神経系の機能の異常が見られます。
これは、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体チャネルが、過剰に活性化することが原因の一つと考えられています。
メマンチンはこのNMDA受容体チャネルを阻害することで機能異常を抑制します5)。
簡単に説明すると「脳の過剰な活性化を抑制し、記憶や学習機能が障害されるのを抑制する」ということです。
「認知機能」を改善し、中等度~重度アルツハイマー型認知症の「行動障害」にも有効です1)。
メマンチンの投与初期の副作用には、めまい、傾眠があります。
便秘も比較的起こりやすいとされています。
メマンチンは単独使用、もしくはChEIと併用して使用します。
ChEIとメマンチンの共通点と治療方法について
ChEIとメマンチンの共通点として、
○認知症のそのものを治す薬ではないこと
○副作用を出にくくするため、最初は少量からスタートし、間隔をあけて増量していくこと、があります。
アルツハイマー型認知症の症状の進行抑制に対しての治療方法の選択として1)
<症状が軽度のとき>
ChEIのうちどれか1つを使用します。
効果不十分な時、効果がないとき、副作用で使用できないときなどは、他のChEIに変更することを考慮します。
<症状が中等度のとき>
ChEIかメマンチン、どちらかを単独使用します。
単独使用で効果不十分な時は、両者の併用を考慮します。
効果不十分な時、効果がないとき、副作用で使用できないときなどはChEIを、他のChEIに変更することを考慮します。
<症状が重度のとき>
ドネペジルとメマンチンの併用を考慮します。
参考:
1)認知症疾患診療ガイドライン2017
2)日本生物学的精神医学会誌22巻4号: 249-252, 2011
3)Clin Interv Aging. 2008;3(2):211-25.
Efficacy and safety of donepezil, galantamine, and rivastigmine for the treatment of Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis.
4)Cholinesterase inhibitors for Alzheimer’s disease
Cochrane Systematic Review – Intervention Version published: 25 January 2006
5)メマリー添付文書
コリンエステラーゼ阻害薬の種類
ドネペジル(商品名アリセプト)
抗認知症薬の中でも一番最初に認可されたのがドネペジルです。
アルツハイマー型認知症(軽度~高度)、レビー小体型認知症に使用されます。
アルツハイマー型認知症
主な症状:自身の体験そのものが思い出せない物忘れ
維持量:通常5mg、症状が高度の場合10mg
レビー小体型認知症
主な症状:物忘れ、幻覚症状、手足を動かしにくい
維持量:通常10mg
服用初期に食欲低下、吐き気、下痢などが出ることがあるため、
1日1回3mg
↓ 1~2週間あけて
5mg
↓ 4週間以上あけて
10mgへと徐々に増量していきます。
なお、日本では1日最高10mgですが、アメリカではアルツハイマー型認知症に対して1日23mgの投与が可能です1)。
ドネペジル10mg/日は「行動障害」にも有効です2)。
ドネペジルは腎機能、肝機能低下時にも通常量が使用可能です。
血中濃度が定常状態に達するまでに15日程度かかります。
他の抗認知症薬からアリセプト®に切り替える場合、3mgからの投与となります3)。
剤形が豊富で、普通錠・口腔内崩壊錠・ドライシロップ、ゼリーがあります。
併用注意薬剤にカルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールなどの抗てんかん薬があります。これらによりドネペジルの効果が弱くなる可能性があります。
後述するガランタミン・リバスチグミンはこれらの薬剤と併用注意にはなっていません。
ガランタミン(商品名レミニール)
2011年3月から販売され、軽度~中等度アルツハイマー型認知症に使用されます。
アセチルコリンの量を増やすだけでなく、アセチルコリンの働きをより活性化する作用もあります。
服用初期に食欲低下、吐き気、下痢などが出ることがあるため、
1回4mg、1日2回
↓ 4週間あけて
1回8mg、1日2回
↓ 4週間以上あけて
1回12mg、1日2回へと徐々に増量していきます。
副作用を軽減するため、食後に投与することが望ましいです4)。
ガランタミン24mg/日で「行動障害」に有効です2)。
中等度の肝障害では
1回4mg、1日1回
↓ 少なくとも1週間たってから
1回4mg、1日2回
↓ 4週間以上あけて
1回8mg、1日2回へと増量します。
最高用量は1日16mgです。
重度の腎障害患者(クレアチニンクリアランス9mL/分未満)では、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること、となっています。
剤形には普通錠、OD錠、液剤があります。
リバスチグミン(商品名イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)
2011年7月から販売され、軽度~中等度アルツハイマー型認知症に使用されます。
アセチルコリンエステラーゼとブチルコリンエステラーゼの2つを阻害することでアセチルコリンを増やします。
吐き気、嘔吐、食欲不振などの副作用が出るのを抑えるため、少量からスタートし、4週間たってから増量していきます。
開始用量には次の2パターンがあります。
①1日1回4.5mg→9mg→13.5mg→18mgへと増量。
増量の間隔はそれぞれ4週間毎。
②1日1回9mg→4週間後に18mgに増量。
9mgからスタートすると、吐き気、嘔吐などの副作用が出やすくなることに注意が必要です
日本で承認されているリバスチグミンの剤形は貼り薬(パッチ剤)のみです。
海外では経口剤も発売されていますが、消化器症状(主に悪心、嘔吐)が認められています。パッチ剤にすることで緩徐で持続的な吸収が可能になり、最高血中濃度は経口剤よりも低く、消化器症状の副作用を少なくすることができました1)。
貼り薬なので、お薬を飲むことを嫌がる人に向いている薬剤ですが、皮膚症状が出やすいという欠点があります。
皮膚がかぶれやすいときは、保湿剤の塗り薬や炎症を抑える塗り薬を塗り、皮膚症状を改善しながら、貼り薬の使用を続けていきます。
重度の肝機能障害のある患者では、投与経験がなく、安全性が確立されていないため、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ投与することになっています。
腎機能低下時の投与方法については、添付文書に記載はなく、通常量が使用可能と思われます。
NMDA受容体拮抗薬の種類
メマンチン(商品名メマリー)
2011年6月から発売され、中等度及び高度アルツハイマー型認知症に使用されます。
「軽度」の症状は保険適応ではありません。
めまい・傾眠などの副作用が出るのを抑えるため、
1日1回5mg→10mg→15mg→20mgへと、
それぞれ1週間ごとに増量していきます。
高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/min未満)のある人には慎重に使用し、この時の維持量は1日1回10mgまでとします。
便秘が起こりやすいので、排便の状態を確認することが大切です。
めまいが出やすいので、めまいのある人には使用しないほうがよいでしょう。
重度のアルツハイマー型認知症では興奮性の焦燥の発現を減らすという報告があります。
また、アルツハイマー型認知症に伴う「行動障害」にも効果が見られています2)。
剤形には、普通錠、OD錠、ドライシロップがあります。
参考
1) 日本生物学的精神医学会誌 22 巻4 号
2)認知症疾患診療ガイドライン2017
3)エーザイのDIより
4)レミニール添付文書
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