ACE阻害薬を中止する治療とは
突然だが、エナラプリル(レニベース®)などのACE阻害薬の禁忌の項目を読んだことがあるだろうか?
実はこのような記載がある。
禁忌
①デキストラン硫酸固定化セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコール又はポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシスを施行中の患者
②アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた血液透析施行中の患者
①が禁忌の理由は
「血圧低下、潮紅、嘔気、嘔吐、腹痛、しびれ、熱感、呼吸困難、頻脈等のショック症状を起こすことがあるため」で、
その機序は…
「陰性に荷電したデキストラン硫酸固定化セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコール又はポリエチレンテレフタレートにより血中キニン系の代謝が亢進し、ブラジキニン産生が増大する。
更にACE阻害薬はブラジキニンの代謝を阻害するため、ブラジキニンの蓄積が起こるとの考えが報告されている。」となっている。
②が禁忌の理由は
「アナフィラキシーを発現することがあるため」で、
その機序は…
「多価イオン体であるAN69により血中キニン系の代謝が亢進し、本剤によりブラジキニンの代謝が妨げられ蓄積すると考えられている。」となっている。
このように、機序は違くても1も2もブラジキニンの量が増えることが原因で、禁忌扱いになっている。
さて、いまどき血液透析でAN69膜を使用しているのはほとんどないと思われるが、アフェレーシスはどうなのだろう。
アフェレーシスを行う機械には
リポソーバー®
イムソーバTR®
レオカーナ®
などがある。
このうちレオカーナ®は2021年3月に発売に発売されたばかりなので、注意が必要だ。
併用薬同士の禁忌ではなく、「飲み薬と医療機器の禁忌」という珍しいパターンだが、覚えておくとよいだろう。
言うまでもないが、アフェレーシスを行う医療機関は、患者がACE阻害薬を飲んでいるかどうかを必ず確認しないといけない。
なお、ARBにこの禁忌はないことも併せて覚えておこう。
特定の吸着器を用いたアフェレーシスでは、ACE阻害薬を中止することがある!
アフェレーシスとは?
透析療法を除く、体外循環治療のこと。
血液を体の外にいったん取り出し、濾過・吸着などにより血液から病因物質の除去または電解質のバランスを調整し、きれいになった血液を再び体の中に戻す治療法。
高コレステロール血症、閉塞性動脈硬化症、潰瘍性大腸炎、薬物中毒などに利用される。
先ほど紹介した機器はそれぞれ保険適応が異なる。
リポソーバー®の保険適応
・家族性高コレステロール血症
・閉塞性動脈硬化症
・全身性エリテマトーデス など
イムソーバTR®の保険適応
・重症筋無力症
・多発性硬化症
・慢性炎症性脱髄性多発根神経炎
・ギラン・バレー症候群
レオカーナ®の保険適応
・潰瘍を有する、血行再建術不適応又は不応答な閉塞性動脈硬化症
レオカーナ®は、LDL及びフィブリノーゲンの吸着による血液レオロジーの改善により、閉塞性動脈硬化症患者の末梢血液循環の改善を導き、難治性潰瘍を治療することを目的に使用する医療機器である。
患者さんから「今度、血液をキレイにして皮膚の治りを良くするの/潰瘍の治療をするの/コレステロールを取り除くの」などと聞き取ることができたら、アフェレーシスを行う可能性がある。
そんなときは、ACE阻害薬を飲んでいないか、チェックできるとよいだろう。
ACE阻害薬の基本情報はこちらをどうぞ。
参考までに、ACE阻害薬はACEを阻害することで
①アンジオテンシンⅠ→アンジオテンシンⅡへの変換を阻害し、血圧を下げる
だけではなく
②ブラジキニンの分解を抑制→気道で増えたブラジキニンが気道を刺激し、これにより咳が誘発されることがある。この咳がでるのを逆手にとって、適応外で誤嚥性肺炎予防に処方される場合もあることを知っておこう。
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