セマグルチド 経口薬(リベルサス®錠)について
これまでのGLP-1受容体作動薬は注射薬しかなかったが、2020年6月29日、初の経口薬セマグルチド(リベルサス®)の製造販売が承認された。規格は3mg、7mg、14mgの3規格。
セマグルチド(遺伝子組換え)は、生体内のGLP-1と94%の構造的な相同性を有するGLP-1アナログである。すでに週1回の注射薬であるオゼンピック®皮下注が発売されているが、同じ成分の経口薬が発売されたことに注目だ。
●徐々に量を増やす
●14mgで投与するときは14mg錠で処方、7mg×2錠ではいけない(効果が減弱する可能性がある)
●薬としては珍しく、胃で吸収される。
●空腹時に服用、水は120mlくらいで服用。
●服用後30分は飲食、他の薬の服用は禁止
●吸湿性あり、光に弱い。一包化禁止。
●シートを縦にハサミで切ってはいけない。
リベルサス®の適応と用法用量
<適応>
2型糖尿病
<用法用量>
1日1回3mgから開始し、4週間以上投与した後、1日1回7mgに増量する。
1日1回7mgを維持用量とする。
1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1回14mgに増量することができる。
☞14mgを投与するときは、7mg錠×2で使用してはいけない旨が添付文書に記載あり。なんてこった。後で理由を説明します。
☞1日1回3mgは既存のDPP-4阻害薬と効果に差がないそう(メーカーより)。3mgで継続するなら特殊な理由がない限りDPP-4阻害薬にした方がいいと思われる。
GLP-1受容体作動薬(注射薬)の適応と用法
●エキセナチド注射剤(バイエッタ®皮下注)
✅2型糖尿病。
ただし、食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤(ビグアナイド系薬剤又はチアゾリジン系薬剤との併用を含む)を使用しても十分な効果が得られない場合に限る。
✅1日2回投与。
●持続性エキセナチド注射剤(ビデュリオン®皮下注用)
✅2型糖尿病。
ただし、食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤、ビグアナイド系薬剤及びチアゾリジン系薬剤(各薬剤単独療法又は併用療法を含む)による治療で十分な効果が得られない場合に限る。
✅週1回投与。
●デュラグルチド(トルリシティ®皮下注)
✅2型糖尿病
✅週1回投与。
●セマグルチド(オゼンピック®皮下注)
✅2型糖尿病。
✅週1回投与。
使用上の注意
●リベルサス®は胃で崩壊後に、胃から吸収される。
セマグルチドの吸収には下記の要因が影響を及ぼすため、以下の注意を守るよう患者に丁寧に説明する必要がある。
✅本剤は空腹の状態で服用する必要がある。
1日のうちの最初の食事又は飲水の前に服用すること。
✅本剤はコップ約半分の水(約 120mL 以下)とともに服用すること。
✅他の経口剤と同時に服用しないこと。
✅本剤服用後の絶飲食時間(服用時及び服用後少なくとも 30 分)を順守すること。
他の経口剤の服用も本剤の絶飲食時間後とすること。
●皮下投与用セマグルチドを用いた動物試験において、胎児毒性(詳細は添付文書を確認してください)が認められている。
そのため、「2ヵ月以内に妊娠を予定する女性には本剤を投与せず、インスリンを使用すること」となっている。
●「吸湿性が強く、光に不安定なため、PTPシートの状態で保存すること。」となっているため、一包化は不適である。
●本剤のシートをミシン目以外で切って保管すると、湿気等の影響で本来の効果が期待できないとなっている。ミシン目は横なので、つまり縦に切ってはいけないということだ。
意味がわからないですね。切っても大丈夫なようなシートの工夫をして欲しいところです。
これまでのGLP-1受容体作動薬が注射だった理由
ペプチドであるGLP-1受容体作動薬は、経口投与しても消化酵素によって分解されてしまい吸収できないことから、これまでは注射薬しかなかった。
どのようにして経口投与を可能にしたか
セマグルチドは
①ペプチドをベースとするため、分子量が大きく消化管からの吸収が悪い
②胃の分解酵素により分解されてしまう
ことから、経口投与は適していなかった。
リベルサス®は、吸収促進剤であるSNAC(サルカプロザートナトリウム)を添加することで、経口投与を可能とした。
<SNACの作用>
セマグルチドは自己会合により多量体を形成しているが、SNACによってモノマー化が促進される。
また、SNACの局所でのpH緩衝作用により、セマグルチドの急速な酵素的分解を防ぐ。
これらの作用により、胃からの吸収が促進される。
Q.なぜ、本剤14mgを投与する際には、7mg錠2錠の投与ではダメなの?
A.SNACは適切な量でセマグルチドの吸収を高めるが、逆に多すぎても吸収が落ちることが知られている。14mg1錠に含まれるSANCの量より、7mg2錠に含まれるSNACの量が多いため吸収に影響が出る。
また、本剤の吸収は錠剤表面の周辺部に限定される。
以上のことより、SNACの含有量の差異および物理的に2つの錠剤が胃内に存在すると本剤の吸収に影響を及ぼす可能性があるため、本剤14mgを投与する際に7mg錠を2錠で投与することはできない。
以下も参考に。
健康被験者を対象に、SNAC 含有量が 300mg 又は 600mg の本剤 10mg 錠を単回投与したところ、セマグルチドの Cmaxはそれぞれ 4.80±5.30 及び 3.03±4.64 nmol/L、AUC0-504 hはそれぞれ 414.47±499.17 及び 241.09±398.22nmol・h/L であり、SNAC の含有量が 300 mg から増加するとセマグルチドの曝露量の低下がみられた。
リベルサス®IFより
副作用
多いのは悪心、下痢(5%以上)。
他のGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬と比べてどのくらいの強さ?
こちらのサイトのまとめを参考にしてみてください。
既存の薬と比べると、HbA1cと体重の減少効果は同等や、やや強い傾向にあるようです。
DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の基本情報
食事をとると、GLP-1という物質が消化管(小腸のL細胞)から出てくる。
GLP-1は、膵β細胞で血糖値依存的に(≒血糖値が高い時だけ)インスリンの分泌を促進し、膵α細胞ではグルカゴン分泌を抑制することで血糖値を下げる。
また、中枢では摂食抑制ホルモンとして作用し、食欲を抑える効果がある。
このような特徴的な作用をもつGLP-1ではあるが、DPP-4という分解酵素によりあっという間に分解されてしまい効果がなくなってしまう。
●DPP-4阻害薬
その名のとおりDPP-4を阻害し、GLP-1の分解を抑制することで効果を発揮する。
●GLP-1受容体作動薬
GLP-1に類似した構造をもち、同様の効果を発揮し、かつDPP-4で分解されにくいように化学合成して作られたのもの。
DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の効果
血糖値が低い時や空腹時には血糖値を下げる効果は出ないとされる。
食事をして血糖値が上昇したときに血糖降下作用が出るので、DPP-4阻害薬の単独使用、GLP-1受容体作動薬の単独使用では低血糖は起こりにくい。
食欲抑制効果があり、過食による血糖値上昇を抑えることが期待できる。
GLP-1受容体作動薬の「注射薬」は体重減少効果もある。経口薬であるリベルサス®錠は、3mgや7mgよりも、14mg投与により体重減少効果があると示唆されている(参考:リベルサス錠の臨床に関する概括評価)。
DPP-4阻害薬と比較して、GLP-1受容体作動薬は血糖降下作用と体重減少効果は強いが、吐き気・便秘などの副作用が多い傾向にある。
その理由として、DPP-4阻害薬は、生体が分泌する量以上にGLP-1を増やすことはない。
一方で、GLP-1作動薬は生体が分泌するよりも大量のGLP-1(類似物)を体の外から注射もしくは摂取するので、効果(血糖降下作用、体重減少効果、吐き気など)が強く出ると考えられる。
DPP-4阻害薬の種類
<毎日服用>
シタグリプチン(ジャヌビア®、グラクティブ®)
ビルダグリプチン(エクア®)
アログリプチン(ネシーナ®)
リナグリプチン(トラゼンタ®)
テネリグリプチン(テネリア®)
アナグリプチン(スイニー®)
サキサグリプチン(オングリザ®)
<1週間に1回服用>
トレラグリプチン(ザファテック®)
オマリグリプチン(マリゼブ®)
GLP-1作動薬の種類
<毎日使用>
エキセナチド注射剤(バイエッタ®皮下注)
<毎日服用>
セマグルチド 経口薬(リベルサス®)
<1週間に1回使用>
持続性エキセナチド注射剤(ビデュリオン®皮下注用)
デュラグルチド(トルリシティ®皮下注)
セマグルチド(オゼンピック®皮下注)
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