月経困難症とは
月経困難症は「機能性月経困難症(いわゆる月経痛)」と「器質性月経困難症」に分けられる。
機能性月経困難症 | |
好発年齢 | 15~25歳 |
内診初見 | 器質的疾患なし |
時期 | 月経中 |
症状の性状・持続 | 痙攣性、周期性。4~48時間持続。 |
器質性月経困難症 | |
好発年齢 | 30歳以上 |
内診初見 | 子宮内膜症、子宮腺筋症など |
時期 | 月経中。 悪化するとほかの時期でも起こる。 |
症状の性状・持続 | 持続性の鈍痛。1~5日は持続。 |
機能性月経困難症の痛みが起こる理由
月経周期の間に妊娠が成立しないと、プロゲステロンが消退するときにCOXが発現し、
プロスタグランジン(PG)を産生すると考えられ、このPGによる子宮筋の過剰収縮が痛みの原因の1つとされている。
機能性月経困難症の治療薬
対症療法の1つとして、ロキソニン®などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の内服がある。
NSAIDsはCOXの酵素活性を抑制するので、月経開始早期の、痛みが強くなる前から服用するとより効果的である。
この対症療法でも痛みが抑えられない場合は、「エストロゲン(卵胞ホルモン製剤)とプロゲスチン(黄体ホルモン製剤)の配合薬」のホルモン療法を行う場合がある。
子宮内膜症とは
子宮内膜症とは、子宮内膜が本来あるべき子宮の内側以外の場所に発生する疾患。
卵巣やダグラス窩(子宮と直腸の間)などで月経周期に合わせて子宮内膜が増殖する。
症状に、激しい月経痛、腰痛、月経時以外の腹痛、排便痛、性交通など。
器質性月経困難症の原因 + 不妊の原因にもなるため、見過ごせない。
子宮内膜症による器質性月経困難症の治療
対症療法の1つとして、ロキソニン®などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の内服。
対症療法で痛みをコントロールできない場合は、「エストロゲン・プロゲスチン配合薬」、もしくは「プロゲスチン製剤のジエノゲスト」を使用する。
エストロゲン・プロゲスチン配合薬とは
エストロゲン・プロゲスチンの配合薬には
1. 経口避妊薬:OC(Oral Contraceptives)
2. 月経困難症治療薬:LEP(Low dose Estrogen Progestin 低用量エストロゲン・プロゲスチン)製剤
とに分かれる。
エストロゲン・プロゲスチン配合薬は、日本では1999年に経口避妊薬として最初に承認され使用されていたが、月経痛の緩和作用などがあることも知られ、適応外で処方されていた。
その後、2008年にルナベル®配合錠(ノルエチステロン・エチニルエストラジオール)が月経困難症の適応で発売された。
OC・LEP製剤の基本的な飲み方は、有効成分を含む実薬を21日間連続で服用し、その後7日間は休薬もしくは7日間偽薬を服用する。これを1クールとして、継続服用する。
*後述するヤーズ®配合錠では、実薬を24日間、偽薬を4日間、合計28日間服用。
OC・LEP製剤が月経時の痛みに効くのは、
プロゲスチンにより
①子宮内膜の増殖を抑制し、排卵と子宮内膜の肥厚を抑えること
②COXの発現を抑制し月経期のPG産生を抑制すること
で、月経困難症の症状を和らげると考えられている。
症例1
20歳、機能性月経困難症
処方例1
ルナベル®配合錠LD(もしくはULD)
1日1回1錠、寝る前、21日分
*21日間服用後7日間休薬。以上28日間を投与1周期とし、出血が終わっているか続いているかにかかわらず、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返す。
もしくは
処方例2
ヤーズ®配合錠
1日1回1錠、寝る前、28日分
*定められた順に従って(淡赤色錠から開始する)28日間連続服用。
以上28日間を投与1周期とし、出血が終わっているか続いているかにかかわらず、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返す。
症例2
35歳、子宮内膜症による器質性月経困難症
処方例1
ヤーズ®フレックス配合錠
1日1回1錠、寝る前、28日分
*月経開始日から服用
ヤーズ®などのLEP製剤が使えない(使いにくい)場合は
処方例2
ディナゲスト®(ジエノゲスト)錠1mg
1回1錠、1日2回、朝夕食後、28日分
*月経周期2~5日目より開始
ルナベル®配合錠LDとULDの比較
ルナベル®はノルエチステロン(NET)とエチニルエストラジオール(EE)の配合剤である。
共通点:
LDとULDは同じ適応症(月経困難症)で、服用方法も同じ(21日間服用、7日間休薬を投与1周期とする)。
異なる点:
LDよりもULDの方が、卵胞ホルモンであるEEの含有量が少なく、これにより副作用が減り使いやすくなったこと。
ただし、LDよりもULDの方が不正性器出血の発現頻度が高いため、不正性器出血が見られる場合は、ULDからLDに変更したほうが良いだろう。
1錠中の配合比は以下の通り。
LD | ULD | |
NET | 1mg | 1mg |
EE | 0.035mg | 0.02mg |
ヤーズ®配合錠とヤーズ®フレックス配合錠の比較
実は、ヤーズ®には「ヤーズ®配合錠」と「ヤーズ®フレックス配合錠」とがある。
共通点:
ヤーズ®配合錠もヤーズ®フレックス配合錠も、1錠当たりの成分含有量が同じで、
ドロスピレノン(DRSP)3mgと、エチニルエストラジオール(EE)0.020 mgを含有している。
異なる点:
ヤーズ®配合錠の適応症が「月経困難症」であるのに対し、
ヤーズ®フレックス配合錠では「子宮内膜症に伴う疼痛の改善」と「月経困難症」であることだ。
そして、
ヤーズ®配合錠が「実薬錠24錠(淡赤色錠)」と「主成分を含有しないプラセボ錠4錠(白色錠)」からなる28錠を、以下の写真のように順番に服用し、28日間を投与1周期とするのに対して
ヤーズ®フレックス配合錠は、「28日周期(24日内服、4日休薬)」以外に、「実薬を最長120日間連続服用+休薬4日間」の124日周期法を繰り返すことができる。
つまり、最長で120日間月経をなくすことができるのだ。
注意:用法用量の詳細は添付文書をよく読むこと。
ヤーズ®フレックス配合錠が開発された経緯
一般的な処方である「28日周期処方」の場合は、休薬により月1回の周期的な月経(消退出血)が認められるが、子宮内膜症及び月経困難症の主な自覚症状である疼痛の程度は月経時に高いことが知られている。
最長120日までの連続投与を可能とした本剤は、休薬による月経の頻度を減らすことが可能となる。
「ヤーズ®」よりも「ヤーズ®フレックス」の使用を考慮するケース
1:月経量が多く、貧血傾向の患者
→ヤーズ®フレックスの連続投与(最大120日)により月経回数を減らすことができ、出血による負担を減らせる
2:毎月の月経に煩わしさを感じている患者
3:子宮内膜症・月経困難症の疼痛に悩まされている患者
→ヤーズ®フレックスの開発の経緯参照
ヤーズ®などのLEP製剤とジエノゲストの比較
症例2(35歳、子宮内膜症による器質性月経困難症)・処方例2のように、LEP製剤が使えない(使いにくい)場合は、ディナゲスト®(ジエノゲスト)(プロゲスチン製剤)を使用する場合がある。
<LEP製剤のデメリット>
●LEP製剤は低用量化に伴って、不正出血が起こることがある。
最長120日連続で服用できるヤーズ®フレックスは、服用期間が長くなればなるほど、不正出血が多くなる可能性がある。
●重篤な副作用に静脈血栓症(VTE)があり、3〜9人/1万人・年の頻度で認められる。
血栓症は服用開始3ヶ月以内に起こることが多い。
→服用初期のモニタリングが重要!VTEのリスクはエストロゲン製剤によるもの。
●35歳以上で1日15本以上の喫煙者は禁忌
→心筋梗塞などの心血管系の障害が起こりやすくなる可能性があるため
●個人差はあるが、吐き気などで継続困難な場合がある
このようなLEP製剤のデメリット考慮し、ジエノゲストが子宮内膜症による器質性月経困難症の治療に使用される場合がある。
プロゲスチン製剤であるジエノゲストにはエストロゲン製剤は含まれていないため、VTE発症リスクの観点から40代以降で有用である。
しかし、副作用として不正出血が高頻度で起きてしまう。
実臨床でのジエノゲストの使い方は、「重症の子宮内膜症に使用する薬」と覚えておくとよいだろう。
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