タクロリムス製剤とは
免疫抑制剤に分類されるタクロリムス製剤には、プログラフ®とグラセプター®がある。
「移植における拒絶反応」に対して使用する場合は、プログラフ®が1日2回の服用であるのに対し、グラセプター®は1日1回の服用で済む徐放性製剤である。
臓器移植患者は生涯にわたって免疫抑制剤の服用が必要となり、その間の服薬コンプライアンスが非常に大事であるため、1日1回製剤は有用と考えられる。
なお、グラセプター®のジェネリックはない(2020年11月時点)。
タクロリムスの特徴・作用機序
タクロリムスは、放線菌Streptomyces tsukubaensisの代謝産物から発見されたマクロライド構造を有する物質で、シクロスポリンより約100倍強い活性を示す。
カルシニューリンを阻害することで、インターロイキン2やインターフェロンγなどのサイトカインの産生を選択的に阻害することで、強力な免疫抑制作用を発揮する。
また、移植における拒絶反応だけではなく、
〇重症筋無力症
〇関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る)
〇ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)
〇難治性(ステロイド抵抗性、ステロイド依存性)の活動期潰瘍性大腸炎(中等症~重症に限る)
〇多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎
にも使用されるが、グラセプター®にこれらの適応はなく、プログラフ®に適応がある。
タクロリムスの処方・調剤は注意!!
タクロリムス製剤は、一般名が同じでも製剤的特徴が異なることで製品名、用法が異なる。
普通製剤
プログラフ®:移植には1日2回
徐放性製剤
グラセプター®:移植には1日1回
処方医が両薬剤の切り換え意図がないにもかかわらず、両者を間違えて処方・調剤が行われ、血中濃度が変動した事例が報告されているため注意が必要。
参考:グラセプター®とプログラフ®の取り間違え注意のお願い
プログラフ®とグラセプター®には次のような剤形・規格があり、しっかりと認識していないと勘違いをして処方・調剤をする可能性がある。
プログラフ®の剤形と規格
カプセル:0.5mg/1mg/5mg
顆粒:0.2mg/1mg
グラセプター®の剤形と規格
カプセル0.5mg/1mg/5mg
先述の通り、グラセプター®のジェネリックはない(2020年11月時点)。
一般名処方で「タクロリムス水和物徐放性」とあれば、グラセプター®のみをさし、プログラフ®やプログラフ®のジェネリックではないこともしっかり覚えておく必要がある。
プログラフ®とグラセプター®の剤形・規格に応じた適応症
プログラフ®カプセル0.5mg/1mg/5mg
プログラフ®顆粒0.2mg/1mg
<適応>
〇下記の臓器移植における拒絶反応の抑制
腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植
〇骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病の抑制
1日2回の服用(食前・食後の記載は添付文書になし)
プログラフ®カプセル0.5mg/1mg/5mg
<適応>
難治性(ステロイド抵抗性、ステロイド依存性)の活動期潰瘍性大腸炎(中等症~重症に限る):1日2回朝食後及び夕食後
プログラフ®カプセル0.5mg/1mg
プログラフ®顆粒0.2mg/1mg
<適応>
重症筋無力症:1日1回夕食後
プログラフ®カプセル0.5mg/1mg
<適応>
〇関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る):1日1回夕食後
〇ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合):1日1回夕食後
〇多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎:1日2回朝食後及び夕食後
グラセプター®カプセル0.5mg/1mg/5mg
<適応>
〇下記の臓器移植における拒絶反応の抑制
腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植
〇骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病の抑制
1日1回朝(食前・食後の記載は添付文書になし)
<グラセプター®の特徴>
●グラセプター®カプセルの1日1回投与は、プログラフ®カプセルの1日2回投与に劣らない安全性と有効性を有する。
●プログラフ®カプセルと同一の1日用量で、プログラフ®カプセルと同等のAUC が得られる。
●プログラフ®カプセルと同一の1日用量で、プログラフ®カプセルと比較し、同程度以下の Cmax を示す。
<プログラフ®→グラセプター®に切り替える場合>
プログラフ®経口製剤から切り換える場合(腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植、骨髄移植)は、通常、プログラフ®経口製剤の同一1日用量を1日1回朝、経口投与する。
タクロリムスの目標血中濃度
プログラフ®の治療上有効な血中濃度
●移植領域:5~20ng/mL(骨髄移植における移植片対宿主病の好発時期には10~20ng/mL)
●潰瘍性大腸炎:10~15ng/mL(投与 2 週間)、5~10ng/mL(投与 2 週後以降)
●多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎:5~10ng/mL
●重症筋無力症:該当資料なし
●関節リウマチ:該当資料なし
●ループス腎炎:該当資料なし
グラセプター®の治療上有効な血中濃度
●移植領域:5~20ng/mL(骨髄移植における移植片対宿主病の好発時期には 10~20ng/mL)
☆高い血中濃度が持続する場合に腎障害が認められているので、血中濃度(およそ投与24時間後)をできるだけ20ng/mL以下に維持する必要がある。
感想
グラセプター®が徐放性製剤なら、「徐放」とか「CR」とか、一目でわかるような名前にしてくれ!と思ったのが正直なところである。
それはさておき、プログラフ®とグラセプター®の処方・調剤間違えの事例から、「知らない」ということは「怖い」ということがよくわかる。日々の勉強が大切なことだと身に染みる。
ちなみに、薬効は異なるが、ベタニス®(成分名ミラベグロン)も徐放性製剤であることを知ってましたか?
参考:各種添付文書、IF
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